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  部活動の思い出・中編   

 
それからの自分はもう、ボート1本であった。
秋の中国大会の次は、春の西日本大会が待っている。
冬もシーズンオフなのに関わらず、よく同回生連中と競い合ってたし、 夜はよく一緒に鍋を突ついていた。
いろんな先輩の話も聞いたりと気分は最高に高まっていた。
勿論、色恋沙汰もありましたさ♪詳しくは書かないが。
自分にとって最高に充実した日々、馬鹿になりきってる自分がそこにあった。

そして、再びシーズンオン!
今度は俺は同回生とチームを組んで出漕することに。
殆ど新人クルーにも関わらず、士気だけは最高だった。
もう、3、4回生クルーにケンカ売りまくり状態。
もちろん全然歯が立たないけど、それでもひたすら挑戦あるのみって感じでさ。
正直技術なんて見れたものではなかったし、まさに下手糞。
それでも勝ちたくて仕方なかったし、練習も1番最初に出て、1番最後にあがってきた。
練習が終わる頃にはすっかり日も沈んでいて、
月の照らす夜をよくみんなでチャリ漕いで一緒に帰ったっけ。
夏なんかは田んぼを飛び交う蛍も見れてちょっと風流だったな。
漢同士なのがナントモ味気無い。

ヘロヘロになった体で一緒にメシを食えば、また飽きもせずボートの話ばっかりだし、 みんなホントに馬鹿だった。
今思えば、馬鹿さが俺等の武器だったのかもしれない。
練習は相変わらずキツイし、みんなで今日の練習はどうのとか話をするが、
辛そうに話す奴はいなかった。
楽しそうに喋ってた。

相変わらず家に帰ったらすぐに寝ていたが、前みたいな感じはもうない。
明日こそは先輩等を倒してやろうと考えてた。
試合に向け、ますますテンションは上がっていった。
今回の試合は西日本規模の試合なので前の試合とは規模が違う。
やはりそんな中に新人クルーは場違いかもしれないが、俺等はなにがなんでも勝利を飾る気だった。

そして試合当日、予想以上の規模に緊張しまくりだった。
周りにいる選手がみんな強そうに見えた。
スタート地点まで艇を漕いで行けば、後はスタートの合図までただ待つのみだ。
この僅か数分の時間というのは、いくら経験を積んでもドキドキする。
まわりには数隻の対戦相手のクルーと審判艇、遠くの陸にはたくさんの観客。
その中でスタートの旗が振り下ろされるまで静かに待つ。
今までの練習を思い出したり、イメージトレーニングをして集中力を高めたり、
まぁ、時間を潰す方法は選手によって様々だ。
俺等初心者チームはというと、その場の静寂と緊張に押しつぶされそうになってた。

“おい、あそこに女の子が座って応援しとるやろ、パンツが見えそうや。”
クルーの1人がこんな事を言う。
パンツネタは本来なら俺の言うべき台詞なのに。
“アホ、試合前におっきくなったらどうすんじゃ!”
本当のところ、応援席は遠いのでそんなの見える訳ないのだが、いくらか緊張はとれた。
少しだけ、いつものノリに戻れたと思う。

試合が始まった。
スタートの旗が振られると同時に一斉に艇が走り出す。
3位以内に入れば次に行けるのだが、自分達は途中4位だった。
けど、少しずつ3位の艇に追い上げてきた。
時間が経つのがものすごく遅く感じた。
ボートの一試合なんて高々5分前後だ。けど、その5分が半端じゃなく長い。
もう息も限界だったし、腕や足の感覚も無いし、何がなんだか訳分からなねぇ。
それに、横に並んでる艇を見る余裕なんて無い。
持てる力の全てをオールに注ぎ込んで振り回すだけだ。
途中、明らかに差したのが分かった!
その勢いでそのままゴール。

俺等は勝ったんだ!
もう腕が動かないなんて言ってたくせに皆でガッツポーズをした。
水を掻き回して喜んだ。
前の奴と肩を掴み合って喜んだ。
俺達は勝ったんだ。
もう、めっちゃ嬉しかった。
自分の人生で最高に嬉しかった。
受験に受かった時よりも、女が出来た時よりもうれしかった。
当然だ。情けない話だが、生まれて初めて本気で打ち込んで得た勝利だ。
そりゃ嬉しい。
端から見れば只予選を突破しただけに過ぎないが、自分達にとって大きな自信となった。
自分達の夏はその後も爆進し、次の大会では準決勝にまで上り詰めた。
自分がボート馬鹿になりきっていた時期だった。









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